熊本地方裁判所人吉支部 昭和36年(ワ)49号 判決 1963年6月25日
原告 国
訴訟代理人 元永文雄 外一名
被告 有限会社小吹木材商会 外四名
主文
被告等は連帯して原告に対し、金二十一万四千二百十九円及びこれに対する昭和三十五年七月四日より支払済まで年三割六分の割合の金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担、その余を被告等の連帯負担とする。
事実
原告指定代理人は、被告等は連帯して金四十六万四千六百七十円及びこれに対する昭和三十五年四月十六日から完済まで年三割六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。との判決を求め、その請求原因として
一、訴外合資会社木村商事(以下訴外会社と称する)は昭和三十四年二月六日被告等を連帯債務者として、金五十万円を、利息の点は不明であるが、弁済期日昭和三十四年二月二十八日、この期日後は日歩三十銭の遅延損害金を支払うべき特約で貸付けた。
一方訴外会社は法人税を滞納していた。
二、人吉税務署長は訴外会社に対する滞納処分として昭和三十五年二月十三日前記貸金及びこれに対する昭和三十四年十一月一日より差押時までの遅延損害金の債権を差押えた。しかるに第三債務者にあたる被告等は
(1) 昭和三十五年二月二十日金十五万円を支払つたのでこれを日歩三十銭の特約率により昭和三四年十一月一日より昭和三十五年二月二十日まで百十二日分の遅延損害金十六万八千円の内金として受取り、
(2) 同年三月九日金五万円を支払つたので内金四万五千円は同日までの遅延損害金(右(1) の不足金一万八千円を含む)、その余の金五千円は元金の内入として受取り、
(3) 同月三十一日金六万三千円を支払つたので内金三万二千六百七十円は同旧迄の遅延損害金として、その余の三万三百三十円は元金の内入として受取つた。
三、その後訴外会社に対し新な租税債権が発生したので、昭和三十五年十月六日前記債権差押を解除するとともに即日、従前の分と新規分とを併せた租税債権を執行債権として、新たに、前記訴外会社の貸金債権残存元金四十六万四千六百七十円の内金三十八万五千二百円及びこれに対する昭和三十五年四月一日以降の遅延損害金の債権を差押えたところ被告等は昭和三十五年十月十八日金二万円を支払つたのでこれを同年四月一日から同月十五日迄の遅延損害金として受取つた。
四、以上の如く原告は四回の支払を受けたが日歩三十銭の遅延損害金えの充当はその旨を弁済者に告げたにも拘らずなんら異議の申出はなく、従つて任意に支払つたものというべきであるから前記の通り充当したものである。
五、然して原告は昭和三十五年十二月九日更に滞納処分として訴外会社の前記貸付残元金四十六万四千六百七十円中既差押の三十八万五千二百円以外の部分たる金七万九千四百七十円及びこれに対する昭和三十五年四月十六日以降の遅延損害金の債権を差押えた。よつて取立権に基き金四十六万四千六百七十円の元金及びこれに対する昭和三十五年四月十六日以降の年三割六分の率による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ」と述べ被告等主張の木材製品代金による内入弁済の抗弁を否認した。被告等代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁及び抗弁として、
一、原告主張事実中、内金受領に際し遅延損害金は特約の日歩三十銭の率を以て受入れる旨を告げた、との点は否認し、その余は総て認めるが、次のとおり内入弁済をしたので原告主張の債権は元残金二十一万四千二百十九円及びこれに対する昭和三十五年七月四日以降年三割六分の率の遅延損害金があるに過ぎない。
二、即ち、被告等は訴外会社に昭和三十四年二月六日負担した債務について昭和三十四年十月三十一日迄毎月六分の金三万円の利息損害金を支払つてきたが、同月頃訴外会社代理人木村東生からの注文で、被告有限会社小吹木材商会は代金十二万千七百八十一円相当の木材製品を引渡したので同年十一月末の計算を以つて右代金の内金三万円は同月分利息に、その余の九万千七百八十一円は元金の内金に夫々合意充当し、ついで同年十二月頃代金千七百六十四円相当の木材製品を引渡したので前同様これを同年十二月三十一日同月分の利息内入とした。右木村東生の木材製品買受行為は仮りに代理権限外であるとしても、同人は訴外会社の社員であつて代表社員たる妻木村順子から営業に関し代理権を与えられ、事実上訴外会社の全行為を行つていた者であるから木材製品買受についても代理権があると信ずるにつき正当な理由があるのである。
三、右一部弁済により昭和三十五年一月末日現在の債務残額は元
金四十万八千二百十九円及び約定率によつて計算した場合の遅延損害金四万七千二百二十二円未払となるところ、被告等は同年二月十三日の差押を受けた後
(1) 同月二十日原告に金十五万円を支払つたが、これは先づ任意に前記昭和三十五年一月末までの分の遅延損害金四万七千二百二十二円に充てたが、その余は利息制限法による制限範囲たる月三分の率による同年二月分遅延損害金一万二千二百四十七円及び元本に内に金九万五百三十一円充当されるべきであるから、残元金三十一万七千六百八十八となり、ついで
(2) 同年三月九日金五万円、同月三十一日金六万三千円の計金十一万三千円を支払つたが、これは前同様月三分の率による同月分損害金九千五百三十一円に充てた残の金十万三千四百六十九円は元本に充てられるべきであるから残元金二十一万四千二百十九円となり、更に
(3) 同年十月十八日金二万円を原告に支払つたが、これは前同様同年七月三日迄の損害金として余があるので結局被告等負担の債務額は前記のとおりである。」と述べた。
証拠<省略>
理由
一、成立に争のない甲第一号証、乙第一号証の一、二、証人小吹源蔵及同木村東生の各証言に被告有限会社小吹木材商会代表者本人の供述を綜合すると、合資会社木材商事は木村順子と木村東生の両人で組織し両名は夫婦であつて代表社員は妻の順子となつているが夫東生が事実上会社の運営をしており代表社員の代理人として殆んど全権が与えられていたものであるところ、木村東生は昭和三十四年二月六日被告有限会社小吹木材商会に貸付けた金五十万円の本件債権と、代金額とを差引計算することにして右被告会社に同会社販売の商品たる木材製品を注文し、昭和三十四年十月頃代金十二万千七百八十一円、同年十二月頃代金千七百六十四円の各商品を引取り、前者は同年十一月末日付、後者は同年十二月末日付で、貸金利は月六分の率により、合意の上貸金債権に充当したことが認められる。そして債権の弁済を受くるにつき商品を引取り評価してこれに充てることは右木村東生が有していた代理権限内にあると解されるので、仮りに引取つた木材製品を訴外会社の用に供しなかつた場合であつても本人に効力を及ぼす。
二、かくして昭和三十四年十一月末日に同月分の遅延損害金三万円と元金の内に金九万千七百八十一円が支払われ、同年十二月末日に同月分の遅延損害金の内に金千七百六十四円が支払われたことになるから、昭和三十五年一月末日現在においてみると残元金四十万八千二百十九円、月六分による遅延損害金の未払金四万七千二百二十二円であること被告計算のとおりであるところこの時点において、当事者間争のないところの同年二月二十日の金十五万円、同年三月九日の金五万円及び同年三十一日の金六万三千円の各支払が被告等からなされたわけである。
三、しかるに右被告からの支払金について原告は、利息制限法超過の日歩三十銭の率による損害金に先づ充当し、このことは被告に告げたのに異議がなかつたから任意の支払であると主張する。そしてこの点につき証人小山岑生の証言中には、弁済者は利息制限法の制限率を超えていることを承知の上で給付したとか、約定のとおり(甲第二号証に、期限後の損害金日歩三十銭とあるのを指すものと解されて)受取る旨を告げたとあるけれども、弁済者が制限超過率の損害金の支払をば暗黙裡にでも同意したものには未だ以て認定し難いところである。(むしろ差押に驚き可能なだけ金策し、税務官署が日歩三十銭の高利を徴するなどとは夢想もせず急きよ持参したに過ぎぬものであろうと想像される。)
四、さすれば被告の同意なきになした利息制限法超過率による原告の一方的充当は被告に対しその効なく、制限内に於て充当計算をなすべきであるところ、支払年月日及び金額は当事者に争がなく、利率は法定の最高限年三割六分(月三分)であるから、昭和三十五年二月一日以降(その以前の計算は前示認定ずみ)の計算をすると被告主張の如く、元本の残金二十一万四千二百十九円及これに対する昭和三十五年七月四日以降の遅延損害金が未払として残存しているに過ぎないこと算数上明白である。但し被告は昭和三十五年一月末日まで、分の遅延損害金については、取立権者である原告に対し支払つた分についても六分の率で計算をしているが、これは任意支払であるというのであるから、この部分は利息制限法の制限内に引き直すを要しないものとする。
よつて原告請求中右認定の残存額だけは正当であるから認容するが、その余は不当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条但書の前段を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松下歳作)